2014年5月20日火曜日

時には或る世界の話を vol.2


「今日の成果はどうですか」
入口に、眼鏡をかけた長い白衣の男が立っていた
彼はこの天文台の所長である
長く星霰鉱の研究をしている先駆者だ
学生達は深く頭を下げて一礼し、硝子箱へと視線を移す
硝子箱には真綿が敷かれ、その上で星霰鉱が淡く光った

所長は星霰鉱の実験中に研究の代償として片目の視力を失っているが、
義眼の虹彩に星霰鉱を用いて作り嵌めているので、鉱石と同じように瞬く
それは星に魅せられ星に染まった瞳のようで、天文少年達にとっては畏敬の対象だ
所長は此処の街へ赴任して、もう15年になる。
少年達の所属する部は、彼と天文台の研究を手伝う事で部活動をしている

「星霰鉱は、銀河そのものと交信したともいえる研究成果です。
    レポートはきちんとまとめておくのですよ

少年達は頷き、また作業に戻る
歴代の部員達もまた、こうして銀河と語らっていたのだ
かつての自分と、同じように

・・・所長はセピア色に滲む過去へと思いを馳せた
自分の中の時は、まだあの日で止まってしまっているのだと痛感する
(あの日、私は大切な友の手を離すべきではなかった
もっと強く掴まえていたならば、あの暗い星の穴で見失うことなど無かったのに)
彼は罪に苛まれ、もう数十年の間ずっと友を探し続けている
星霰鉱の生成は空に輝く星の中に友を探す過程で、偶然発見された技術なのだ
彼にとっては鉱石云々よりも、別れた友の消息を追うことだけが目的だった

チカ、チカ、と定期的に空を横切る浮島ステラから、天文台へ定時連絡が入る

   星(ステラ)  ヨリ 天文台(オッセルヴァトリオ)

   臨海都市(コスティエルサテライト)  カラ  衛星都市(チッタサテライト)
   アス ハ カイセイ   アメノ シンパイ ナシ
   スバラシイ ホシノヨル ニナルデショウ
   noblesse oblige  ヨイ ヨルヲ  所長(ディレットーレ)

水平線の向こうから、夜の定期連絡船が白い光を放ちながら海を渡る
そろそろ部活動時間の終わりを告げる鐘が鳴る頃だろう
空には数多の星が輝いている






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